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2025/07/30 (水)
ACE阻害薬と併用禁忌である血液浄化療法とその理由(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系とカリクレイン・キニン系も交えて解説)
 今回は、かなり難しい話です。
 血圧を下げる、降圧剤の中には、以下の図にあるように、血圧を上げる方向に働く、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)に作用する薬剤があります。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬はその中の一つです。
 まず、血圧について述べます。血圧は心拍量×末梢血管抵抗で規定されます。心拍出量は心臓の収縮力とともに循環血液量の影響を受けます。心室内に流入する血液量(前負荷)が増加し、心室が伸展して心筋の長さが増すと、心筋の収縮量が強くなり(フランク・スターリングの法則)、結果的に1回拍出量が増します。末梢血管抵抗に影響するものとしては、血管の収縮、血管壁の硬化があげられます。それらによって末梢血管抵抗は上昇し血圧は上昇します。
 次にRAASについて述べます。アンギオテンシノーゲンはレニンによってアンギオテンシン Ⅰとなり、さらにACEやキマーゼによりアンギオテンシンⅡとなります。アンギオテンシンⅡの受容体にはアンギオテンシン1(AT1)と、アンギオテンシン2(AT2)受容体が存在します。AT1受容体は血管を収縮させ、血圧を上昇させる一方、AT2受容体は逆に血管を拡張して血圧を下げる方向に働きます。また、アンギオテンシンⅡはアルドステロンの産生を亢進し、尿細管でのナトリウムの再吸収を促進し、循環血液量を増やし、血圧を上昇させます。総じてRAAS系はアルドステロンとAT1受容体の作用により血圧は上昇の方向に働きます。
 ACE阻害薬が関与するカリクレイン・キニン系についても述べます。カリクレインの作用によってキニノーゲンはブラジキニンとなります。ブラジキニンは血管拡張、空咳、血管透過性亢進、浮腫といった作用を有し、血圧を低下させます。ACEはブラジキニンを不活性化する作用も有します。
 ACE阻害薬は、アンジオテンシンIIの生成を抑えて昇圧を防ぐとともに、ブラジキニンの分解を抑えて、ブラジキニンの作用を高め、降圧作用をより強力なものとしています。ブラジキニンの作用として空咳がありますが、誤嚥性肺炎予防に良いとの意見もあります。一方で、ACE阻害薬はキマーゼによるアンギオテンシンⅠへの作用は抑制できません。
 ちなみに、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)はキマーゼにより産生されたアンギオテンシンⅡも含め、AT受容体に作用するのをブロックできます。また、AT2受容体は阻害しませんので、AT2受容体による血管拡張などの心保護作用が期待できます。一方でブラジキニンの分解は抑制しませんので、ブラジキニンによる血管拡張作用は期待できない反面、空咳の副作用はありません。
 高齢者などでアルブミンなどの栄養素の損失を抑えた、積層型透析器(H12ヘモダイアライザー(AN69))、LDLなどを吸着する吸着型血液浄化器(レオカーナなど)、選択式血漿成分吸着器(イムソーバなど)はカリクレイン・キニン系に作用し、ブラジキニンの産生を促進します。これらを使用して血液浄化療法を施行する患者がACE阻害薬を内服していると、ブラジキニンの不活性化が阻害され、ブラジキニンの作用が強くでて、過度に血圧が低下することがあります。そのため、これらを使用した血液浄化療法中の患者に対して、ACE阻害薬の使用は禁忌となっています。ARB、直接的レニン阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬もRAASに作用しますが、ブラジキニンの分解は抑制しないため、これらの血液浄化療法中でも使用可能です。
ACE: アンジオテンシン変換酵素  ARB: アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬  AT: アンギオテンシン  DRI: 直接的レニン阻害薬  MRA: ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
ACE: アンジオテンシン変換酵素  ARB: アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬  AT: アンギオテンシン  DRI: 直接的レニン阻害薬  MRA: ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬